第164号
トップ  > 科学技術トピック>  第164号 >  新型コロナウイルス下での中国のオンライン教育の対応

新型コロナウイルス下での中国のオンライン教育の対応

2020年5月07日

山谷剛史

山谷 剛史(やまや たけし):ライター

略歴

1976年生まれ。東京都出身。東京電機大学卒業後、SEとなるも、2002年より、中国では雲南省昆明市を拠点とし、中国のIT事情(製品・WEBサービス・海賊版問題・独自技術・ネット検閲・コンテンツなど)をテーマに執筆する。日本のIT系メディア、経済系メディア、トレンド系メディアなどで連載記事や単発記事を執筆。著書に「中国のインターネット史: ワールドワイドウェブからの独立( 星海社新書)」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち(ソフトバンク新書)」など。

 新型コロナウイルスの蔓延により、日本で世界で学生が学校に行けずに休校が続く状態となっている。中国では早く終息に向かったこともあり、学校での授業が再開しているが、再開時には各学校が「感染者が学内で発生した場合はどう避難し、消毒し、隔離し、連絡するか」といった訓練を行っているようだ。日本も学校を再開する際は、起こりうる事態を想定し、訓練すべきだろう。

image

中国教育部による再開後の通知

 中国では学校内での授業が再開されるまで、「停課不停学(休校でも学習は止まらない)」の掛け声とともに、学校でのオンライン授業が行われた。オンライン授業で使用されたアリババの釘釘や、バイトダンスの飛書(Lark)や騰訊会議といったビデオ会議ができるオフィスアプリが注目され、何かしらのアプリを活用し、オンライン授業は行われた。3月末に国家統計局上海調査総隊は、それまでの在宅学習について保護者にアンケートを行ったところ、「とてもよい。学校の授業と変わりない」は9.6%、「学校の授業ほどではないが、しないよりはいい」は55.5%、「授業が進んでまあよかった」が33.3%と、概ねやった方がよいという結果となった。4月に開催された中国のオンライン教育に関するカンファレンスにおいても、オンライン授業において子供がスマートフォンを見ることから目の健康に悪いというなどの問題は提起されたが、概ね成功したと分析している。

 日本では、執筆時点の段階の情報となるが、オンライン化を徐々に進めている。例えば世田谷区はYouTubeで授業動画を公開し、渋谷区はタブレット貸し出しで学習支援ツールを展開している。横浜市では早くもクラウドキャンパスという動画サイトで授業の動画をアップし、テレビ神奈川(tvk)の地デジサブチャンネルで授業を放送している。これはあくまで一例で関東に限ったことではなく、日本の一部地域で教育委員会が率先してオンライン教育を独自に入れている状況だ。

 日本と中国のオンライン教育化の違いを挙げるなら、中国は地域を問わずオンライン教育コンテンツが提供されていることであろう。ある地域ではオンライン授業を取り入れているのに、ある地域で取り入れてなければ地域で教育格差が発生してしまう。中国はオンライン授業を導入しているので、導入していない日本の自治体では中国との格差も発生してしまうということになる。またオンライン授業には、自宅の光回線など高速回線が必要や情報通信機器が必要だ。パソコンやスマートフォンがない家庭では、まるで紙や鉛筆がないのと同様に、デジタル授業が受けられないのだが、これをどう解決したか紹介していく。

 まず動画サイトの教育コンテンツについては、政府が運営する「国家中小学網絡雲平台」や「一師一優課 一課一名師」のサイトで小学1年生から中学3年生までの科目別(後者に関してはさらに教科書別)動画が用意されている。

image

2月に発表された、全学年全教科のコンテンツが揃ったクラウドプラットフォーム

image

一師一優課 一課一名師

 国家中小学網絡雲平台は、プロが準備した動画であり、動画やサイトも見やすさは目を見張るものがある。後者は中国全土の学校の授業動画だ。サイトによれば、登録授業数は2000万強あり、中国全土で行われた基本の教科の授業の動画のほか、美術(図工)の授業や、第二外国語としての日本語の授業や、少数民族の言語による授業も収録されている。学校の小学生から高校生までの授業の中で、しばしば教卓のIT機器の活用を見ることができよう。日本からでもこれらサイトの動画は視聴できる。実際見てもらうと、その充実ぶりがわかるのでサイトを訪問することをお勧めする。

 国家中小学網絡雲平台だが、これは中国政府教育部と工業和信息化部が2月12日に発表した、小中学校の休校延期期間の勉強についての通知「中小学延期開学期間"停課不停学" 有関工作安排的通知」によるものだ。同通知では、「ネットが使えるところは国家中小学網絡雲平台のサイトなどを中央電化教育館に委託して用意した」、「テレビ局の中国教育電視台で番組を配信する」「一部の省や市のオンライン学習プラットフォームをオープンにする」とした上で「これらをオンライン学習の選択肢のひとつとして勉強を続け、教師も指導する」というものだ。

 オンライン授業では、学生がスマートフォンやパソコンを活用する。本人が所有してなくても家族のものを利用する。今やネットサービスが生活インフラとなり、スマートフォンがないと生活が極めて不便になる中で、都市部農村部・沿岸部内陸問わず、スマートフォンは普及している。セコイアキャピタルが2018年に発表した2000年代生まれ(小学校高学年~大学生)を対象にした「00後研究報告」によれば、00後が自身の情報機器を持っている割合はスマートフォンが94%、タブレットが54%となっている。学生は勉強をタブレットで利用する人もいるが、スマートフォンを主に利用している。

image

スマートフォン所有率は94%、タブレットは54%、スマートウォッチは49%、電子ブックリーダーは29%

 パソコンやスマートフォンを所有しない学生にとっては、紙や鉛筆がない状況であり、教育が受けられない状況となる。例えば広東省清遠市西岸鎮東江村で、2月下旬よりオンライン授業を開設するにあたり、107の貧困家庭があるのだが、村委員会は新たにパソコンを揃えた会議室を用意。3月2日には10人の貧困家庭の学生がそこにいってオンラインレッスンに参加したと報じられている。

 さて、オンライン授業をやるとしても、教師側が対応できないのではないか、教師側にネットリテラシーが足りてないのではないかと思うかもしれない。オンライン授業が開始される前から、微信(WeChat)での教師と保護者と生徒のグループチャットでの連絡は日常的に発生しているが、それとIT機器を活用したオンライン授業に抵抗なくできるかどうかはまた別の話だ。

 実は現在、中国の教師はそれほどオンライン授業に抵抗はない。中国政府教育部は2016年に、2020年までに「誰もが、どこでも、何時でも勉強できる」ような教育の情報化の目標を示した「教育信息化十三五計画」についての通知を発表している。具体的には、「学校の通信速度は基本的に10Mbps以上とし、無線LANを設置し校内をカバーする」「教卓と黒板をIT化(班班通)し活用する」「クラウドやビッグデータを活用する」「『一師一優課 一課一名師』などに積極的に授業動画をアップしシェアをする」というものだ。この計画により、中国全土で教師がITを活用し、教えることにある程度の慣れを与えた。

image

教卓のIT機器「班班通」の教師向けチェックシート。電源のオンオフからワードの使い方までが点数化される

 さらに中国政府教育部は3月19日に、学校再開後の方針に関する通知「関于做好2020年春季学期中小学教育教学工作的通知」を発表した。これは、「事情により参加できない学生にはオンライン授業を提供すること」「オンラインで教えてなければ途中からではなく0から教えること」「新型コロナウイルスに関する授業を設けること」「学校が始業した後も、オンライン授業の経験をフィードバックし、よりよいオンライン授業環境開発に協力していくこと」「新型コロナウイルスによるストレスがある教師や生徒のメンタルをサポートするスクールソーシャルワーカーを配備すること」「受験を控えた中学三年生、高校三年生については、実効性ある教育を計画的に行うこと」「塾などの校外学習組織は対新型コロナウイルス対策をしているか厳しく管理すること」などが記されている。

 中国は既にITを活用した教育の下地があり、突然のパンデミックによる在宅学習でのIT活用を実践できた。日本は中国と比べれば、これまで授業動画を撮ってシェアをしているわけでもなければ、IT機器を活用しているわけでもないが、そうはいっても今すぐにでも在宅での学習をはじめないと、世界的な差が発生してしまう。せめて国内でのネット授業動画の学習リソースを全自治体で活用の選択肢にするような対処が必要ではないだろうか。

山谷剛史氏記事バックナンバー

2020年02月27日 「新型コロナウイルス流行の緊急時下での中国式信用システムの活用

2019年12月25日 「2019年にスタートアップ界隈で起きたこと

2019年10月08日 「中国の交通問題「駐車場がない問題=停車難」とは

2019年08月05日 「中国が推し進める社会信用システムとは

2019年05月09日 「貴州をはじめとした中国各地でビッグデータはどう活用されているか

2019年03月11日 「2018年の中国のネット業界はどこまで発達したか」

2018年12月25日 「中国の子供の情報機器環境は10年で激変。格差も小さく

2018年10月15日 「中国製造2025に向けて動く阿里巴巴(Alibaba)の新製造

2018年07月09日 「商務部発表EC統計を読み、中国の近未来の姿を予測する

2018年04月02日 「『個人情報を国外に出さず、管理する』IT基本方針から予想する未来

2018年03月07日 「主要インターネット統計を読み解き、2017年の数値を把握する

2017年12月28日 「ゲームやアニメなどの文化産業に関する中国五か年計画を読み解く

2017年10月20日 「ビッグデータに関する第13次五か年計画と現状を読み解く

2017年07月21日 「第13次五か年計画でのネット産業強化ポイントを読み解く

2017年05月30日 「日中のネット普及はどれくらい差があるのか―第13次五か年計画で見える将来の目標数値